函館市中央図書館で、ストルガツキー兄弟の翻訳書を探して来ました。
群像社からソフトカバーの単行本が9冊刊行されたうち、ここの蔵書は4冊。
次のリストの4、6、8、9 を借りて来たところです。値段は本体1600円〜2000円。
タイトルと刊行年は「トーキングヘッズ編集室」のサイトの作品リストから引用。
1 世界終末十億年前 1989
2 月曜日は土曜日に始まる 1989
3 願望機 1989
4 みにくい白鳥 1989
5 トロイカ物語 1990
6 そろそろ登れカタツムリ 1991
7 モスクワ妄想倶楽部 1993
8 地獄から来た青年 1994
9 滅びの都 1997
では、本題に戻ります。
前回、冒頭のピリオドまでの一文を、次のように訳しました。
20世紀後半の社会生活にも顕著な現象である。
続きに取り掛かります。
Популярность で始まる、2つ目の文。
パプリャールノスチ 最初の音節にはアクセントが無いので、パと読む。
英語の名詞 popularity に相当する。女性8の主格。意味は「人気」。P.1646.
続く2語、их произведений 3人称複数の代名詞と複数中性の名詞。P.768,1790.
どちらも生格。冒頭の人気に繋がります。3語続けて、意味は「彼らの作品の」。
2つの主格は、они アニー 彼ら、произведение プライズヴィェジェーニエ 作品。
в 60 - 80-е годы 意味は「1960〜80年代に」。
в は対格をとる前置詞。год 男性1 ゴートゥ 年、の複数主格と対格は同じ形。
80-е は順序数詞 восемьдесятый (形容詞と同じ形)の語尾が、対格では
主格と同じ-ые になる。最後のеを数字の80に-еを付けた形で対格語尾を示す。
ここまでをまとめると「60〜80年代に彼らの作品の人気は」となる。
была は動詞 быть の過去形、主語の Популярность が女性名詞なので
女性形になる。意味は「ある、いる、…だ」の過去。「人気は〜だった」。
文末の невероятной は 形容詞1の女性造格、P.1142 ニヴィェラヤートゥノイ
意味は、ありそうもない、並外れた、信じられない、途方もない。
ここで、文法の公式。
出処は次の本の [ был (-о, -а, -и ) + 主格/造格 ]
主格は恒常的状態、造格は一時的状態を示す。
城田俊『現代ロシア語文法』(2004年 初版) P.376 より。
・A(主格) + был + B(主格) — 恒常的な状態を表す
・A(主格) + был + B(造格) — 一時的な状態を表す
この一文をまとめて、少し日本語らしくすると、こうなる。
1960〜80年代には彼らの作品の人気は信じられない程、高かった。
3つ目の文に行きます。
1つの主語(複数名詞)に、動詞が4つ掛かっている形の文だ。
Книги Стругацких ストルガツキーらの本は (これが主語)
ロシア語初心者なら誰でも知っている、本という意味の名詞。
女性3複数主格。クニーギ P.824。続くのは複数生格。
мгновенно исчезали. 副詞 + 動詞の複数過去形 (1つ目の動詞)
なお、副詞は語尾変化しない。P.983 瞬時に、あっという間に。
子音が3つも続く、日本語には無い発音がロシア語には結構ある。
ムグノヴィエンナ イスチェザーリ
動詞の原形は исчезать P.767 不完了体 姿を消す
まとめると
ストルガツキーらの本はあっという間に消えた。
с прилавков магазинов, スプリラーフコフ マガジーノフ
c は生格をとる前置詞。〜から。次の単語につなげて発音する。
男性3複数生格の名詞 P.1737 主格は прилавок 売り台 (英) counter
その次も、男性1複数生格の名詞 P.960 主格は магазин
これも学習の最初の方に出て来て、(英) magazine 店、商店
まとめて、 本屋の棚から とする。
続く単語は、このままの形では辞書に載っていない動詞。 (2つ目の動詞)
いわゆるся動詞(被動)だ。сяは「サ」と読む。しかも過去形。
原形は перепечатывать P.1461 完了体で、対(つい)になる (ピリピチャートゥィヴァチ)
不完了体は перепечатать (本を)増刷する (ピリピチャータチ)
ここで文法の話。
ロシア語では、ほとんどの動詞には、完了体と不完了体のペアがある。
座右の書(『改訂 科学技術者のためのロシア語入門』)のP.59に
これら2つの体の解説が出ている。どのロシア語の文法書にも
動詞の完了体と不完了体の説明は必ずあるので、読者の皆様は
その部分の説明を読んで理解して下さい。
座右の書から説明を一部引用します。
完了体は動詞の示す動作状態の始め又は終わりのみを示し、
その動作の継続を考えない場合に用いられる。
不完了体は、この反対に動作状態自身を表わすもので、
継続や反復を表わす場合に用いられる。
ся形の動詞。一般に普通の動詞にсяが付いた形をしている。
сяの前に母音が来る時はсяをсьにする。上の単語がそうですね。
ся動詞の役目は次の3つ。
(a) 受身の意味を表わす(被動形)
(b) 受身ではなく、その動詞の意味を強める
(c) 相互関係を表わす
перепечатывать 増刷する → перепечатываться 増刷される
複数過去形は
перепечатывали 増刷した → перепечатывались 増刷された
続く動詞も語尾が、これと同じ複数過去形の копировались 。 (3つ目の動詞)
原形は不完了体で P.860 копировать 写す、模倣する、複写する。
意味は コピーされた、でも良いだろう。
残る次の3語でこの文は終わる。
читались коллективно вслух.
不完了体動詞 читать P.2622 チターチ 読む の被動複数過去形。(4つ目の動詞)
意味は 読まれた。
коллективно は副詞 P.834 コリェクチーヴナ 集団で、共同で。
вслух も副詞。P.276 フスルーフ 声に出して、聞こえるように。
3語の意味は 集団で声に出して読まれた。
では、この一文全体を訳した結果は、次のようになる。
ストルガツキー兄弟の本は店の棚から、あっという間に消え、
増刷され、コピーされ、集団で声に出して読まれた。
一体、当時のソ連(ソビエト連邦共和国)全体で、何万部売れたのかは
書いていないので、分かりませんが、彼らのSF小説が人気を博したことは
十分了解出来ます。
以上で、冒頭から6行と1/3までの訳を終えました。
最初に戻ると、冒頭の一語 Творчество は 創作物 とするのが
良いと思います。ストルガツキー兄弟がそれまで無かったSF小説を
書いて世に広めたことが явление (現象、) 出現 という語で
表現されています。
ロシア語の意味を辞書で引くと、ぴったりする日本語はなかなか見つからないと
思います。文化も伝統も思想も違うので、仕方ありません。
使っているロシア語の辞書も、研究社の露和辞典が1988年に刊行。
今年2020年から振り返ると、実に32年前のもの。
平成元年が1989年。ソ連崩壊が1991年12月26日。
1991年はストルガツキー兄弟の兄アルカージイが亡くなった年。享年66歳。
Windows95が出たのが1995年。阪神・淡路大震災の年、
日本でインターネットが普及した年でもあります。
ストルガツキー兄弟の創作物は独特で、ロシア文学に加え
20世紀後半の社会生活にとっても重要な出現である。
1960〜80年代に彼らの作品の人気は信じられない程であった。
ストルガツキー兄弟の本は店の棚から、あっという間に消え、
増刷され、コピーされ、集団で声に出して読まれた。
長い時間が掛かりましたが、以上をA5サイズのリフィル用紙一枚に
手書きで訳した文のまとめとします。
文法事項を解説しながらだったので、iPadのタッチを人差し指でして
入力するのに手間取りました。
ですが、50年ぶりにロシア語の文法書と取り組んで、楽しい時間を
過ごしました。ロシア語を万年筆で手書きにするのも良いものです。
2度ほどキーボードの打ち過ぎで両手とも腱鞘炎になり、リハビリの
意味で2017年から始めた万年筆での筆記は、時間を忘れて熱中する
趣味として、今後も続けて行く積もりです。
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