2020年2月12日水曜日

序文 その2 「ストルガツキー兄弟」

前回、第一段落の本文最初の主語である中性名詞をどう訳すかで間違えて
混乱しておりました。



1行目の最初のカンマまでの意味を確定します。ダッシュ(  )の意味ですが
 A  B.   の形で、「AはBである。」を表します。ロシア語特有の表現です。
そうすると、次の文は、こう訳せます。

 Творчество братьев Стругацких  характерное,

 ストルガツキー兄弟の創造性(創作力)は独特だ、

最後は形容詞なので、独特な以外の表現としては、特異な、特徴のある、など。
要するに、これまで見たことが無い、とか、前代未聞と言うことでしょう。

そもそもこの形容詞の元になっている名詞は характер ハラークチェル 
 1 (人間の)性質、性格、気質
の意味で、英語の character に相当します。

続く2語、形容詞+名詞のひとかたまり значительное явление
ズナチーチェリナヤ イヴリェーニエ 著しい 現象 である。
現象以外には、出現、出来事という意味もあります。

著しいは、国語辞典では、こう説明されています。
 その傾向・状態が誰の目にも、はっきりと認められ、否定できない様子だ。

別の表現の「顕著な」の方が座りが良さそうな気がします。顕著の意味は
 際立って目に付き、疑いを容れる余地が全くない様子。

どちらも同じことを言っています。それなら、
 顕著な現象だ
でどうでしょうか? ここまでをまとめます。

 ストルガツキー兄弟の創作力(創造性)は独特で、顕著な現象だ。

次にカンマも無く現象に続くのは、形容詞+形容詞  российской литературное,
 ロシアの 文学の
まとめて、「ロシア文学の」。英語では russian  literatury。名詞は literature。
これらの数と性と格は、単数女性生格でした。

この2つ繋がった形容詞が修飾する名詞はどこにあるのでしょうか?
当然、単数女性名詞であるはずです。それが前回残した疑問でした。

いよいよ3つに区切られた最後の文節に入ります。8語から成ります。

да и общественной жизни второй половины нашего столетия.

 では、да ダー だけだと英語のyesに相当しますが、次の и イ(and)も
含めた接続詞 да и で、そして、それに、その上、加えて の意味に。

その次の2語は、形容詞+名詞。しかもどちらも単数女性生格。
общественной の名詞は обществo つまり「社会」。これ、前回、
中性名詞でかつ抽象名詞の例として出て来ましたね。アクセントは先頭に。
オープシチェストゥヴィェンノイ 主格は общественный 形1 P.1271

続く名詞は 主格が жизнь ジーズニ P.562 生命、命、人生、生活など。
英語の life 。これら形容詞と名詞は頻出語です。
これら2語の熟語は辞書の例文に「社会生活」として載っています。

要するに、「ロシア文学の中だけで無く、実際の社会においても顕著な現象だ」
とまとめられます。文学は極端に言えば絵空事。それに対して現実の社会は
他人事(ひとごと)ではない、自分にとって切実な存在である。

絵に書いた餅より、目の前のカップ麺が空腹を満たしてくれるということ。
では無くて、もっと切実な話、自由の無い共産主義の独裁政権が牛耳る
ソビエト連邦に生きる人々にとって、ストルガツキー兄弟のSF小説は何を
与えたのか。それは小説の中の正義か勇気か自由を取り戻す戦いなのかは
知りませんが、おそらく読者に生きる糧(かて)を与えるような内容であった
のだろうと想像します。

彼らの長編小説『収容所惑星』海外SFノヴェルズ(早川書房、1978)のあらすじを
引用します。原書は1972年刊行。

 二十歳になってもなんの能力もなく、自分の将来さえ決めることも出来ずに、
宇宙に対するあこがれだけは人一倍のマクシム。彼は未知の惑星を発見し、
自分の名前をつけ、異星人とコンタクトし、怪物と闘うことを夢見て自由
調査集団に入った。

 ある日、いつものように彼は“惑星総覧”を取り出すと、地球を後にあてのない
旅に出た。だが、航行中不運にも隕石事故に会い、幸か不幸か未知の惑星に
不時着したのだった。

 空気は燃えるように熱く、重苦しく得体の知れない死臭が息を詰まらせる。
河は放射能に汚染され、大地は荒廃し、すべては灰色一色に塗りつぶされている。
そして、奇妙なことに異常に強い光の屈折が大地を凹面に見せ、密度の高い大気の
せいで星空など存在もせず、神羅万象はまるで円の内側にへばりついているかの
ようなのだ――この異形の世界こそ、宇宙の孤島、収容所惑星だった!

 住民は〈紅蓮創造者集団〉と称する謎の権力者たちに支配され、不気味に
林立する塔の放射能によって白痴化されていた。宇宙船を破壊され、もはや二度と
地球へ戻れぬマキシムは、圧政に苦しむ奇形人、ミュータントたちと共に闘うべく
立ち上がるが……⁉︎

 エフレーモフ亡き後のソ連SF界の第一人者が異なる社会体制とのコンタクトを
中心テーマにして現代社会の歪みを鋭く諷刺した問題作!
(引用終わり)

本書の訳者あとがきの最後にストルガツキー兄弟の〔作品リスト〕があります。
その中に発禁になった長編『そろそろ登れ蝸牛』66・68年 があります。
さらに68年の『トロイカ物語』も即刻発禁。66〜67年の長編『醜い白鳥』は
地下出版、72年に西独で再版。

元の翻訳に戻ります。「社会生活」に続く4語。

второй половины нашего столетия.  辞書のページは、284, 1615, 1134, 2243。
最初の2語は形容詞+名詞、単数女性生格。フタローイ パラヴィーヌィ
意味は、第2の 半分の。この2つは熟語で「後半の」。

後ろの2語は所有代名詞+名詞、単数中性生格。ナシヴォー スタリェーチヤ
意味は「我々の世紀の」、つまり20世紀のこと。
この研究書が出版された1996年の時点では、「今世紀の」とすべきか。

4つをまとめて、「20世紀後半の」。

これで第一段落の最初の一行が終わりました。
これらを続けると、次のようになります。

ストルガツキー兄弟の創作力(創造力)は独特で、ロシア文学に加え
20世紀後半の社会生活にも顕著な現象である。

何か堅い表現で、直訳調だが、語彙(ごい、ボキャブラリー)が
貧弱なため、このままにして、先に進もう。



次回は、Популярность で始まる、2つ目の文。
パプリャールノスチ 最初の音節にはアクセントが無いので、パと読む。
英語の名詞 popularity に相当する。意味は「人気」。

では、ストルガツキー兄弟の作品の当時(60〜80年代)の人気は
一体どのくらいであったのか? 次回、それを探ろう。って、
下の画像を見りゃー、誰にでも、すぐに分かってしまうのだが……。



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